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市場調査のやり方とコツ — 心配性のための実践ガイド
市場調査の正しい手順を、目的の決め方・デスクリサーチ・インタビュー・アンケート・市場規模の見積もりまで一通り整理する。使えるツールと、バイアスを避けるコツ、市場規模をざっくり試算できるツールもつけた実践ガイド。

市場調査は、大規模なアンケートや高価なレポートがなければできない、というものではありません。結論から言えば、市場調査の核は「確かめたい問いを先に決め、安い方法から順に裏を取る」ことに尽きます。やみくもにデータを集めるのではなく、何を知れば次の判断ができるのかを定義してから動くと、少ない手間でも判断材料が揃います。本記事では、目的の決め方から、デスクリサーチ・インタビュー・アンケート・市場規模の見積もりまで、誰でも再現できる手順とツールを整理します。
市場調査は何のためにやるのか
市場調査の目的は、大きく分けて 3 つに整理できます。混ざると調査が散漫になるので、今回はどれを知りたいのかを最初に決めます。
- 課題の有無:困っている人が実在するか、どれくらい深刻か
- 市場の大きさ:その困りごとを持つ人がどれくらいいて、お金がどれだけ動くか
- 競合と代替手段:今その課題はどう解決されているか、誰が提供しているか
これは事業づくり全体の中では「課題が実在するか」を確かめる工程にあたります。市場調査が検証ステップ全体のどこに位置するかは 起業の流れを検証の順番で読み解く で扱っているので、全体像を先に押さえておくと、調査の力の入れどころが判断しやすくなります。
正しい手順 ─ 5 つのステップ
市場調査の一般的な進め方は、次の 5 ステップに整理できます。順番に意味があり、上流を飛ばすと下流の精度が落ちます。
| ステップ | やること | アウトプット |
|---|---|---|
| 1. 問いを定義 | 何が分かれば判断できるかを 1 文で書く | 調査の問い(リサーチクエスチョン) |
| 2. デスクリサーチ | 既存の統計・レポートで全体像を掴む | 市場規模・トレンドの仮説 |
| 3. 定性調査 | インタビューで「なぜ」を深掘る | 課題の実在・言葉・文脈 |
| 4. 定量調査 | アンケートで「どれくらい」を測る | 割合・規模の裏づけ |
| 5. 統合と判断 | 集めた材料を突き合わせて結論を出す | 次の一手の意思決定 |
心配性の人ほど 2 のデスクリサーチを延々と続けがちですが、机上で分かるのは輪郭までです。課題が本当に存在するかは 3 の定性調査でしか確かめられません。逆に、いきなりアンケートを配ると、存在しない課題を数値化してしまうことがあります。定性で仮説を作り、定量で裏を取るという順番が、遠回りに見えて確実です。
ステップ 1 ─ 問いを定義する
最初にやるのは、調査の問いを 1 文に絞ることです。「市場を調べる」では広すぎて、何を集めても終わりません。たとえば「地方の小規模飲食店は、予約管理にいくら払っていて、何に不満を感じているか」のように、対象・知りたいこと・判断基準が入った形にします。
問いが決まると、必要なデータと不要なデータが分かれます。これが調査の範囲を決め、無駄なリサーチで疲弊するのを防ぎます。
ステップ 2 ─ デスクリサーチ(二次データ)
デスクリサーチは、すでに存在する公開データ(二次データ)を使って全体像を掴む工程です。費用がかからず短時間で済むので、最初に行うのが定石です。日本の事業環境であれば、次のような一次情報が出発点になります。
- e-Stat(政府統計の総合窓口):人口・事業所・産業の公式統計
- 総務省・経済産業省の白書・統計:業界動向やトレンド
- 中小企業庁「中小企業白書」:中小・創業まわりの実態
- 業界団体の公開資料:その分野特有の数字
- Google トレンド:検索needの推移と季節性
二次データの注意点は、出典・調査時期・定義を必ず確認することです。古い数字や、自分の対象とずれた定義のデータを使うと、後の判断ごと狂います。「誰が・いつ・どう測ったか」を控えておくと、後で見積もりの根拠を説明できます。
ステップ 3 ─ 定性調査(インタビュー)
課題が実在するかを確かめる主役は、顧客インタビューです。5〜10 人にしっかり話を聞くだけでも、課題の有無と、その人たちが使う言葉(これは後の発信や商品説明に効きます)が見えてきます。
ここで最も多い失敗は、聞き方で答えを誘導してしまうことです。『The Mom Test』(Rob Fitzpatrick)は、「こういうサービスがあったら使いますか」と未来の意向を聞くと、人は気を遣って「使う」と答えると指摘します。代わりに、過去の具体的な行動を聞きます。
- NG:「予約管理アプリがあったら使いますか?」(未来・仮定)
- OK:「直近で予約管理に困ったのはいつ、どんな場面でしたか?」(過去・事実)
- OK:「今はそれをどう解決していますか? いくら/何時間かけていますか?」
過去の行動・現在の代替手段・かけているコストの 3 点を押さえると、課題の深刻さが定量的にも見えてきます。インタビューで拾った言葉は、後の認知獲得(どう伝えるか)にもそのまま使えます。伝え方の設計は 自分のサービスをどう知ってもらうか と地続きです。
ステップ 4 ─ 定量調査(アンケート)
インタビューで作った仮説を、数で裏づけるのがアンケートです。「課題を持つ人が母数のどれくらいいるか」を測れると、市場規模の見積もりに使えます。設計で気をつける点は次のとおりです。
- 誘導しない:「〜は不便だと思いますか」ではなく「〜についてどう感じますか」と中立に聞く
- 1 問 1 論点:「価格と品質に満足ですか」のような二重質問を避ける
- 回答者の偏りに注意:知人や SNS だけに配ると、母集団とずれる(サンプリングバイアス)
- n 数を意識:少数だと誤差が大きい。傾向を見る程度か、判断に使えるかを区別する
無料〜安価なツールとしては、Google フォーム(自前で配布)、回答者を買えるリサーチパネル系サービスなどがあります。自前配布は安い代わりに回答者が偏りやすく、パネルは費用がかかる代わりに母集団を設計できる、というトレードオフです。
市場規模の見積もり ─ TAM / SAM / SOM
集めた数字から市場の大きさを見積もるとき、よく使われるのが TAM / SAM / SOM の 3 段階です。
- TAM(Total Addressable Market):その課題に関わる市場全体
- SAM(Serviceable Available Market):自分が現実的に届けられる範囲
- SOM(Serviceable Obtainable Market):初期に実際に取れそうな規模
見積もりには「積み上げ式(顧客数 × 単価から作る)」と「トップダウン式(全体市場からシェアを掛ける)」があります。どちらも前提の置き方で数字が大きく動くので、両方で出して桁が合うかを確かめると安心です。下のツールで、前提を変えながら桁の感覚を掴めます。
試算ツール
市場規模をざっくり見積もる(TAM / SAM / SOM)
母数・課題保有率・リーチ率・単価・初期シェアを入れると、市場全体(TAM)・自分が狙える範囲(SAM)・初期に取れそうな規模(SOM)の概算が出ます。正確な数字ではなく、桁の感覚と前提の置き方を確認するための道具として使ってください。
想定する顧客が属する集団の全体数。国・地域・業種で区切った数を入れる。
母数のうち、解決したい困りごとを実際に抱えている人の比率。
販路・地域・言語などの制約で、自分が実際に届けられる範囲。
1 顧客あたり 1 年で支払う見込み額。
届く範囲のうち、最初の 1〜2 年で現実的に獲得できそうな比率。
TAM
市場全体
60.00 億円
SAM
狙える範囲
18.00 億円
SOM
初期に取れそう
9,000 万円
TAM = 母数 × 課題保有率 × 単価 / SAM = TAM × リーチ率 / SOM = SAM × 初期シェア。各割合の根拠(なぜその数字か)を一次情報で裏づけられるかが、見積もりの信頼度を左右します。
バイアスを避けるコツ
市場調査でいちばん怖いのは、データがないことより、偏ったデータを正しいと信じてしまうことです。心配性の人が陥りやすい落とし穴を挙げます。
- 確証バイアス:自分の仮説を支持する声だけを集めてしまう。反対意見を意図的に探す。
- 誘導質問:欲しい答えに向かう聞き方をする。中立な言い回しに直す。
- サンプリングバイアス:身近な人だけに聞く。母集団に近い相手を選ぶ。
- 生存者バイアス:成功事例だけを見る。やめた人・買わなかった人にも聞く。
- 調べすぎて動けない:完璧な確証を待つ。「次の判断ができる程度」で切り上げる。
特に最後の一つは、慎重派ほど起きやすい現象です。市場調査は不確実性をゼロにする作業ではなく、判断できる程度まで下げる作業だと捉えると、どこで切り上げるかの目安になります。
使えるツールの一覧
| 用途 | ツール例 | 費用感 |
|---|---|---|
| 公的統計 | e-Stat、各省庁の白書・統計 | 無料 |
| 検索needの把握 | Google トレンド、キーワードプランナー | 無料 |
| アンケート配布 | Google フォーム、各種フォームツール | 無料〜 |
| 回答者の確保 | リサーチパネル系サービス | 有料 |
| 競合・市場レポート | 業界団体資料、各種調査会社レポート | 無料〜有料 |
| インタビュー記録 | 録音 + 文字起こしツール | 無料〜 |
高価なツールから入る必要はありません。無料の公的統計と数人へのインタビューだけでも、最初の判断には十分なことが多くなります。集めた数字を事業の指標に落とし込む段階では、虚栄の数字を避ける視点が要ります。指標の設計は KGI と KPI を正しく設計する が参考になります。
そのまま使えるチェックリスト
- 調査の問いを 1 文で書けているか
- デスクリサーチの出典・時期・定義を控えたか
- インタビューで未来ではなく過去の行動を聞いたか
- 反対意見・買わない理由も集めたか
- アンケートに誘導・二重質問がないか
- 市場規模を 2 つの方法で出して桁が合ったか
- 「次の判断ができる」状態になったら切り上げたか
まとめ
- 市場調査の核は「確かめたい問いを先に決め、安い方法から順に裏を取る」こと
- 手順はデスクリサーチ → 定性(インタビュー)→ 定量(アンケート)の順。定性で仮説、定量で裏づけ
- インタビューは未来の意向ではなく、過去の行動・代替手段・コストを聞く
- 市場規模は TAM / SAM / SOM で段階的に。積み上げとトップダウンの両方で桁を確認
- 最大の敵はデータ不足より偏ったデータ。バイアスを意識し、反対意見も集める
- 調査は不確実性をゼロにする作業ではなく、判断できる程度まで下げる作業
一次情報・参考
- e-Stat(政府統計の総合窓口)
- 中小企業庁 — 中小企業白書(各年度版)
- Google トレンド
- Fitzpatrick, R. (2013). The Mom Test: How to Talk to Customers & Learn if Your Business is a Good Idea When Everyone is Lying to You. CreateSpace.
- Malhotra, N. K. (2019). Marketing Research: An Applied Orientation (7th ed.). Pearson.
- 中小機構 J-Net21 — 創業・起業を支援する情報サイト